生きる中心にある「絵を描く」という行為で、人の想像力を刺激するモノづくりを。

現代美術作家・イラストレーターとして活動する一方、ひとり雑貨メーカー「Re:VERSE PRODUCTS(リバースプロダクツ)」を立ち上げ、さまざまな表現の可能性に挑戦してきたトヨクラタケル。「Re:VERSE」という言葉に込めた思いや、常に彼を捉えて離さない「子ども」という存在について。創作の裏側にあるまなざしについて聞きました。

聞き手・文:松本幸(QUILL)


専門学校時代に仲間と始めたユニット「Re:VERSE」。
その頃から、思い続けていること。

トヨクラさんが今の画風やフェルトという表現手段に辿りついたのは、いつのことだったんですか?

デザイン専門学校2年生の終わりごろです。専門学校に入る前は、絵が好きだという気持ちに蓋をして、弁護士めざして大学の法学部に通っていました。ずっと「絵では食べていけない」と思っていましたから。でも卒業を前に「もうどうなってもいいから、やっぱり絵の道に進もう」と覚悟を決めて専門学校に入り直したんです。それで2年の時に、絵から立体作品を作るという課題が出たんですが、たまたま隣の席の女の子がフェルトを使ってるのを見て、「面白そうだから貸して」と言って使ってみたのが始まりです。その作品が評判よかったので、じゃあ次もまたフェルトで作ってみよう、という繰り返しで、だんだん今のようなスタイルになっていきました。顔のないキャラクターもフェルトをやり始めてからですね。僕の創作は、世の中の不条理に対する怒りや疑問が出発点になっていることが多いんですが、そういうダークな世界観を絵の具で描いても、あんまり見てもらえなかったのが、フェルトを使うようになってからたくさんの人が目を留めてくれるようになったという実感はありました。

専門学校時代にすでに雑貨のレーベルも立ち上げていたとか。

はい。「就活しない」という意志を確かめ合ったクラスメイトと僕で、卒業後は会社にするつもりで3人のユニットを組んだんです。3人の作風を持ち寄り、フェルトと背景画を合体させた、雑貨とアートピースの中間のようなモノを作ってはストックして、いろんなお店に営業に行ってました。授業外の時間しか活動できないから、学校に朝6時集合!って約束して、ひたすら制作してたんですよ。そのユニットの名前が「Re:VERSE(リバース)」です。

「Re:VERSE」の名前は当時からだったんですね。そのネーミングに込めた思いとはどんなものだったんでしょう。

大量生産・大量消費の時代が転換期を迎えている中で、もう一度、手作業でひとつひとつ丁寧にモノを作って届けていた時代に戻りたいという思いがあったんです。「Re:」はメールの返信につくマークのイメージ。僕ら絵描きの一方的な自己主張だけでなく、お客さんもそこにリアクションしたりできるような、双方向のコミュニケーションを丁寧に育てていきたいという思いを込めています。実際には、3人で活動していたのは半年間ほどで、ユニットはいったん解散することになるんですが、僕にとってその半年間は5年分に匹敵するぐらいの濃密さがあります。


絵描きが始めた、「ひとり雑貨メーカー」。

そこからはソロ活動になるんですね。

卒業後4年ぐらいは、アルバイトしながらイラストレーションをやって、細々と雑貨も作っていました。「Re:VERSE」の名前はそのままで、クラフトマーケットで作品を販売したりしてるうちに、あるアートディレクターさんの目に留まって、FM802の「ストリートアートオーディション」に通ったりとか……。「イラストレーションファイル」(玄光社)という雑誌に掲載されるというのがひとつの目標だったんですけど、それが果たせたのが2007年で、自分としては「やっとスタートラインに立てたな」という感じでした。バイトを辞めて絵描き1本に絞ったのがその年です。その後、「フリーター、家を買う」の装丁のお仕事などきっかけに、さらに多くの人に見ていただけるようになりました。

ソロになってからも、雑貨を作って販売する活動はずっと続いていたんですね。

そうなんです。でも僕ひとりがコツコツ手でフェルトを切って制作する「手作り雑貨」スタイルから、ある程度量産もできるような体制へと移行するきっかけになったのは、2013年の個展がきっかけです。作品展示に合わせてグッズを作ろうとなって、それまであたためていた製造のアイデアを形にしたコースターを発表したんですが、この時から「Re:VERSE PRODUCTS(リバースプロダクツ)」を名乗るようになりました。

「ひとり雑貨メーカー」としてのスタートですね。

はい。コースターだけではブランドの世界観が作れないから、それからはアップリケを開発してアイテム数を増やして。実はアップリケの前に一度マグネットにも挑戦してみたんですが、どうしても磁石の黒色がフェルトの下に透けて見えて発色の美しさが損なわれてしまうので、マグネットはあきらめたんです。商品カタログを作って地道に売り込みをかけるというこれまでの方法だけではなく、さまざまなバイヤーさんが集まる展示会に出展したりという取り組みも始めました。


トヨクラタケルを動かす、「社会と子ども」へのまなざし。
そして絵を描いて生きていくということ。

メーカーになる、という新しい挑戦を支えてきた原動力はなんでしょう?

初期の「Re:VERSE」の失敗を踏まえて、次はちゃんと持続性のあることをやらないと意味がないと思っていたのもありますし、もちろん純粋に自分の作品を広く知ってもらいたいという思いもあります。その一方で、できるだけ多くの子どもたちに、幼い頃からいいデザインに触れてほしいという願いもあって……。子どもの頃に培われる想像力って、すごく大切だと思うし、本物を味わう感性をもった子どもたちが大人になれば、世の中何かが変わるんじゃないかって思っています。だからフェルトの色ひとつにしても、すごくこだわって選んでいますし、ある程度量産できるとは言っても、細かな手作業を内職さんにお願いしたりと、かなり手間ひまがかかってるんです。こんな面倒なモノづくりは大手メーカーさんだったらまずできないし、やろうとも思わないんじゃないですかね。

トヨクラさんの顔がないキャラクターって、まさに想像力を喚起しますよね。

お客さんが悲しい時は、泣いているようにも見えるし、うれしい時は笑っているように見える。お客さんとの行き来っていう「Re:VERSE」のテーマとも重なっていて、お客さんの想像力で商品が完結するというか……。

そしてやはり子どもが主人公であることが多い……。

僕の創作において、子どもという存在はものすごく大きくて、僕自身子どもにしか未来を感じていないところがあります。それはわが子という意味だけではなく、社会の子どもすべてに対してです。今の世の中って、大人がものごとを勝手にむずかしく複雑にして、それを言い訳にしてる気がするんですよ。子どもに説明できないことが多すぎる世の中に対する疑問がすごくあって、子どもに説明できることしか、大人はやるべきではないと思うぐらいだし、「国民主権」以上に「子ども主権」の世界を理想としているところがありますね。

現代美術作家と、商業イラストレーターと、雑貨メーカーと。ひとり三役をこなすことは、トヨクラさんにとってどんな意味がありますか?

僕の中心は絵を描くこと。それは仕事があろうとなかろうと、変わらないと思います。もちろん仕事がなくなるのは嫌ですけど、そんなに悲惨には捉えていなくて、むしろ自分の描きたい絵を描けなくなること、「何を描きたいのか、何を描けばいいのかわからない」となってしまうことの方が怖い。そういう意味では3本の柱があることで自分を守れているのかもしれません。「Re:VERSE PRODUCTS」を始めて、予想外にやることがたくさんあって楽ではないな、と気づいたんですけど(笑)、自分なりに企画開発したものを社会に発信していくというのは、すごくいい経験になっていると思っています。「Re:VERSE PRODUCTS」で作りたいのは、自分らしさがあって、世の中にありそうでなかったもの。そしてただ同じことを繰り返すのではなく、常に進化を続けていきたいです。